メニュー

肘の痛み  ~外側上顆炎(テニス肘)とは?〜 

上腕骨外側上顆炎とは?

物をつかんで持ち上げる動作やタオルをしぼる動作をすると、肘の外側から前腕にかけて痛みが出現します。多くの場合、安静時の痛みはありません。

 

日本手外科学会 手外科シリーズ パンフレットから引用

原因・病態

中年以降のテニス愛好家に生じやすいのでテニス肘と呼ばれています。テニス肘と呼ばれることが多いですが決してテニスだけでなく、パソコン作業や家事など、手首や肘を繰り返し使う動作が原因で発症することがあります。

一般的には、年齢とともに肘の腱がいたんで起こります。病態や原因については十分にはわかっていませんが、主に「短橈側手根伸筋」の起始部が肘外側で障害されて生じると考えられています。 この短橈側手根伸筋は手首(手関節)を伸ばす働きをしています。

  • 外側上顆:肘の外側にある骨の突起で、短橈側手根伸筋をはじめとする複数の筋肉の腱が付着しています。
  • 長橈側手根伸筋:手首(手関節)を伸ばす働きをします。
  • 短橈側手根伸筋:同様に手首を伸ばす働きをします。
  • 総指伸筋:指を伸ばす働きがあります。

日本手外科学会 手外科シリーズ パンフレットから引用 

症状

  • 肘の外側の痛み:特に手首を手の甲の方向に反らせたり、物を握ったりする動作で痛みが強まります。
  • 圧痛:外側上顆部に触れると痛みを感じます。
  • 夜間痛:痛みで夜中に目が覚めることがあります。
  • 機能障害:痛みのために、日常生活動作やスポーツ活動に支障をきたす場合があります。
  •  

診断

外来で簡単に行える疼痛誘発試験を参考にします。①手関節伸展テスト②Chairテスト③中指伸展テストなどを行い、いずれの検査でも肘外側から前腕にかけての痛みが誘発されたら、上腕骨外側上顆炎と診断します。


 

日本手外科学会 手外科シリーズ パンフレットから引用  

 

レントゲンでは骨の不整像や骨棘、石灰化像を確認します。

 

エコーではどの筋肉の腱が損傷を受けているのか、リアルタイムに動かしながら詳細に検査します。
下のエコー画像では、上腕骨の外側上顆の腱付着部に不整があり断裂様の所見を認めます。

 

 

症状が強い、なかなか治らない場合はMRIを撮影し肘周囲の組織を詳細に確認します。
下のMRI画像では、上腕骨の外側上顆の腱付着部に不整・腫脹があり、関節液の貯留も認めるため、強い傷害が示唆されます。

 

 

画像で確認できる異常(腱の部分断裂や大きな変性など)は、重症度の参考になることがありますが、臨床症状との相関が必ずしも強くありません。必要に応じて、主治医と相談しながら評価を進めていくことになります。(手術の適応については、後述します)

 

治療

【装具療法】 
肘を固定するサポーター、テニスバンド

上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン2024(以下ガイドライン2024) に沿って説明していきます。
Clinical Question(以下CQ) 10 
上腕骨外側上顆炎に装具療法は有効か
上腕骨外側上顆炎に対して、装具療法は、理学療法を併用して使用することを弱く推奨する
推奨度2・合意率(100%)・エビデンスの強さC

日本手外科学会 手外科シリーズ パンフレットから引用 

 


【理学療法】
理学療法では、主に長・短橈側手根伸筋の機能を回復させるためのエクササイズやストレッチを行います。これにより、腱の機能及び血流を改善し修復を促します。また、ストレッチはで柔軟性を向上させて再発予防にも役立ちます。

ガイドライン2024
CQ7
上位腕骨外側上顆炎に運動療法は有効か
運動療法行うことを強く推奨する 
推奨度1・合意率(91%)・エビデンスの強さB

~テニス肘に対するリハビリテーション(自主トレーニング)の紹介~

以下の※1、2を実践してみてください。

上腕骨外側上顆炎は、肘関節だけでなく手関節や手指の機能障害も大きく影響していると考えられていて(注)、手関節や手指の体操は極めて有効なことが多いです。 
(注)ECRB腱が付着する第3中手骨基部との関連、手関節の屈曲伸展障害との関連

※1 手関節・手指のストレッチ、手指のトレーニングを参照してください。

※2 肘関節のストレッチ


  • 姿勢を整える
    座った状態でも立った状態でも行えます。背筋を伸ばしてリラックスしましょう。

  • 伸筋群をつかむ
    ストレッチする側の腕を前に伸ばし、もう一方の手で肘付近の手関節の伸筋群(下図参照)を軽くつかみます。

  • 前腕を内側に回す(回内)
    つかんでいる筋肉を意識しながら、手首を内側に回すように前腕をゆっくり回内します。このとき、肘は伸ばしたままにしましょう。

  • ストレッチ感を感じる
    前腕の外側(伸筋群)が気持ちよく伸びる感覚があればOKです。痛みを感じるほど無理に引っ張らないように注意してください。

  • 保持時間
    この状態で15~30秒程度キープし、その後ゆっくりと元の姿勢に戻します。

  • 反対側も同様に行う
    両腕で同じ手順を行いましょう。

 

【注射療法】

ステロイド注射
炎症を抑える効果が高いですが、繰り返しの注射は腱の断裂リスクを高めるため、慎重に行われます。

ガイドライン2024
Background Question  14(以下BQ)
上腕骨外側上顆炎にステロイド局所注射は中・短期的(6ヶ月以内)に有効か
ステロイド局所注射は注射後12週間以内の有用性については強いエビデンスがあると考える。

CQ2 
上腕骨外側上顆炎にステロイド局所注射は長期的(6ヶ月以上に)有効か
上腕骨外側上顆炎に対して長期(6ヶ月以上)の有用性を期待したステロイド局所注射は行わないことを提案する。
推奨度2・合意率(100%)・エビデンスの強さB

Future Research Question 1 (以下FRQ)
上腕骨外側上顆炎に複数回ステロイド局所注射は有用か?
上腕骨外側上顆炎に対するステロイド局所注射は、短期的な有効性では強いエビデンスがあった一方で、複数回使用では一般的な副作用に加えて、腱や靭帯損傷などの極めて重大な有害事象につながる危険が伴い、安全性については引き続き十分に注意を喚起する必要があり、今後の研究課題と思われる。

CQ3 
上腕骨外側上顆炎へのステロイド局所注射の効果は薬剤の種類、容量、投与間隔により異なるか
◎ステロイドの局所注射効果は、薬剤の種類・容量に依存しない多面、高力価の薬剤を高用量で使用しないことを弱く推奨する。
推奨度2・合意率(100%)・ エビデンスの強さC   

◎最適な投与間隔について、明確な推奨は提示できない。
推奨度3・合意率(92%)・エビデンスの強さC

 

★増殖療法(Prolothetapy:プロロセラピー)とは、損傷した靭帯や腱付着部に少量の刺激性の溶液を注入することで、傷ついた構造物の治癒を促すものである。

F R Q 2
上腕骨外側上顆炎に増殖療法(プロロセラピー)は有効か
増殖療法は、エビデンスレベルは低いものの、対照群と比較し、特に中期において疼痛、握力、ADLの改善効果を期待できる。かつもともと血中に含まれる正常成分であり副作用のリスクが少ないこと、局所麻酔を加えることで注射後の痛みを軽減できる可能性が高いこと、安価で入手しやすい点を考えると今後、臨床現場での活用が期待できる治療法である。

プロロセラピーに関しての詳細はこちらのリンクを参照してください。

多血小板血漿(PRP)注射
PRP(多血小板血漿)療法は、患者さん自身の血液から抽出した血小板に含まれる「成長因子」を利用し、体の自然治癒力を高める治療法です。特に、関節や筋腱の損傷・疾患に対して注射を用いたアプローチで行われます。血小板が放出する成長因子が炎症を抑え、組織の再生を促進することで、痛みの軽減や機能の改善を図ります。

CQ4 
上腕骨外側上顆炎に多血小板血漿(PRP)局所注射は有効か
ガイドラインにて上腕骨外側上顆炎に対してPRP局所注射を行うことを弱く推奨する
推奨度2・合意率(92%)・エビデンスの強さB

多血血小板(PRP)に関しての詳細は、こちらのリンクを参照してください。

動注療法
動注治療はオクノクリニックの奥野先生が開発された治療であり、当院はオクノクリニックとライセンス契約を結んで治療を行っています。
動注療法とは、動脈に薬剤を注射することで、炎症部分に発生している「異常な血管:モヤモヤ血管」を減らして疼痛の改善を図る新しい治療方法です。テニス肘の場合は急性期の痛みではなく、慢性的に疼痛や腫脹がある場合に効果的です。

動注療法に関して詳細は、こちらのリンクを参照してください。

【手術療法】
ガイドライン2024
CQ16
 
保存療法抵抗性の上腕骨外側上顆炎に関節鏡視下手術は有効か
保存療法抵抗性の上腕骨外側上顆炎に対する鏡視下手術を行うことを弱く推奨する
推奨度2・合意率(85%)・エビデンスの強さC


CQ18
長期的観点において手術療法は保存療法よりも有効か
長期的観点において、上腕骨外側上顆炎に対する手術療法の保存療法に対する有用性を評価した論文が少なく、明確な推奨を提示しない。
推奨度3・合意率(100%)・エビデンスの強さC

 

予後について

ガイドライン2024
BQ20
上腕骨外側上顆炎後に運動機能低下が残存する割合はどのくらいか
上腕骨外側上顆炎後に生じる運動機能低下について、その割合を明確に示した報告は存在しないため、治療(自然経過を含む)後の握力(前腕伸展筋力)の健患側比を用いて評価した。自然経過、保存療法、手術療法のいずれにおいても、ほぼ健側と同等の回復が認められていた。

 

日本肘関節学会雑誌2017の文献によると、軽症者を含めた本疾患全ての有症者のうち「手術に至ったケースは0.7%(20/2587例)である」と記載されています。

参考文献)加藤悌二,安岡寛理,入江弘基:上腕骨外側上顆炎2800肘の疫学的研究およびその本態に関する考察.日本肘関節学会雑誌2017,24(2)

 

まとめ

外側上顆炎は、繰り返しの動きや使いすぎにより、主に短橈側手根伸筋の腱が損傷し、炎症を起こす疾患です。主に手首を手の甲側へ反らす動作で痛みが生じます。重症化すると難治性になるので、患者自身では痛みが生じる動作をしないこと(疼痛緩和動作)が非常に重要になります。 

 

 

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME