頚椎症
1.頚椎症とは
頚椎症(けいついしょう)は、首の骨(頚椎)が変形し、周囲の神経や血管が圧迫されて症状が現れる疾患です。加齢や長年の姿勢、過度な負担などが原因で、頚椎の椎間板や骨の変形が進むことで起こります。
2.頚椎症の原因
背骨をつなぎ、クッションの役目をしている椎間板は20歳過ぎから変性(老化現象)が始まると言われます。この変性が進むと椎間板にひびが入ったり、徐々に潰れてくるなどの変化をきたします。それに伴い骨が変形して出っ張り(骨棘)を生じますが、これが神経根に触れると「神経根症」になります。また、この骨棘と背骨をつなぐ靭帯の厚みが増してくると脊髄の通り道(脊柱管)が窮屈になり、「脊髄症」を生ずることになります。不良姿勢、繰り返しの重量物の挙上、頚椎に過度の負担のかかる運動などはこの変性を早める可能性があります。
3.頚椎症の症状
症状は3つに大きくわけられます。
①首・肩甲骨付近の痛みや肩こりなどの症状がでます。首を動かすと痛みが増しますが、手のしびれはありません。(局所症状)
②主に片方の首~肩~腕~手にかけての痛み、しびれ、力の入りにくいなどの症状です。これは脊髄の枝(神経根)の障害によるものです。(神経根症)
日本整形外科学会パンフレットより引用
③両方の手足がしびれたり、動きが悪くなったりします。ひどくなると排尿や排便に異常が出たり、ぼたんかけが難しくなる、階段を降りるのがこわくなるなどの症状が出ます。これは首の骨(頚椎)の中を走る太い神経(脊髄)が障害させることによるものです。(脊髄症)
日本整形外科学会パンフレットより引用
4.頚椎症の診断
問診、神経学的検査(痛みやしびれの場所、筋力や反射)、レントゲン検査、エコー検査、MRI検査などを組み合わせて診断を行います。
脊髄症および神経根症の有無を確認することが大事です。
日本整形外科学会パンフレットより引用
5.頚椎症の治療
治療法は、症状の程度や患者さんの状態によって異なります。
◎薬物療法:
①カルシウム(Ca2+)チャネル α2δ リガンド(現在は第3世代タリージェが主流)
痛みやしびれに対して鎮痛効果があり、睡眠の質や痛みに伴う抑うつ、不安も改善することが示されており、痛みだけでなく生活の質(QOL)を改善させる。
ペインクリニック学会 神経傷害性疼痛 薬物療法ガイドライン 改訂第2版 第一選択薬として推奨
慢性疼痛治療ガイドライン2021 推奨度:1(強):使用することを強く推奨する
②その他
トラマドール、SNRI(サインバルタ)、三環系抗うつ薬など慢性疼痛治療ガイドライン2021で推奨されエビデンスが高い薬剤や漢方を、痛みの専門医が症例ごとに最適な薬剤を選択します。
◎神経ブロック療法
神経ブロック療法は、他の保存療法と組み合わせることで効果的な痛みの緩和が可能であり、高位診断(障害部位の同定)としても有用である。
①超音波ガイド下法など限定的な条件で神経根ブロック
慢性疼痛治療ガイドライン2021 推奨度:2(弱):使用することを弱く推奨する
②星状神経節ブロック、椎間関節ブロック、硬膜外ブロック
比較的早期の症状改善を期待するには、安静などの保存的治療よりも、上記の神経ブロック療法がペインクリニック学会治療指針(改訂第7版)で推奨されている。安全性の観点から、X線透視下または超音波ガイド下で神経ブロックを行うことが推奨されている。
◎リハビリテーション:
一般的な運動療法(有酸素運動、筋力トレーニング)は、慢性疼痛の痛みおよび機能障害の改善に有用であるが、他の運動療法(疾患特異的な運動)と比べるとそれらの効果に大差はない。また、包括的な生活の質(QOL)については、それ単独による向上は認められず、他の治療と併用する必要がある。
慢性疼痛治療ガイドライン2021 推奨度:1(強):使用することを強く推奨する
頸椎症に対するリハビリテーションは、痛みや痺れの軽減、姿勢の改善を目的として頚部や肩甲帯、脊柱全体の可動性を向上させること、頚部の安定性を向上させるために頚部の筋力訓練などの運動療法を行います。
→頚部痛の自主トレーニングはこちら
◎手術療法
保存療法(薬物治療、運動療法など)で改善が見られない場合は、狭くなった脊髄の通り道(脊柱管)を広げる脊柱管拡大術や神経を圧迫している椎間板、骨棘を取り除く前方固定術などがあり、症状に応じて適切な方法が選択される。
日本整形外科学会パンフレットより引用
6.頸椎症の予後
頚椎症の予後は、個人の症状の程度や進行具合、行う治療によって大きく異なります。
①神経根症
基本的には自然治癒する疾患です。日本整形外科学会と日本脊椎脊髄病学会では、保存療法として安静、薬物療法、理学療法が推奨されています。3ヶ月以上経っても症状が改善しない場合や、筋力低下や麻痺などの神経症状が進行する場合には手術療法を検討することが推奨されています。
②脊髄症
転倒などの軽微な外傷で四肢麻痺(脊髄損傷)になる可能性が存在しますので、転倒しないように注意します。一般的に日常生活に支障があるような手指の巧緻運動障害※がみられたり、階段昇降に手すりが必要となれば、手術的治療が選択されます。
※巧緻運動障害(こうちうんどうしょうがい)とは、手先の細かい作業が不自由になる状態です。食事や更衣、筆記などの細かい指の動きが要求される運動に障害が現れます。
日本整形外科学会ホームページ「頚椎症性神経根症状」「頚椎症性脊髄症」より引用
頚椎症の治療、予後で大事なポイントを以下にまとめます。
1. 早期診断と治療
- 症状が軽度なうちに治療を開始することで、予後が改善しやすくなります。
- 早期治療により、神経症状や慢性化を防ぐことが重要です。
2. 治療方針の選択
- ほとんどの例で保存療法(薬物療法、理学療法、神経ブロック)が有効です。
- 神経症状が強い場合や進行性の症状がある場合は、稀に手術治療が必要になることがあります。
3. 理学療法の重要性
- 頚椎の可動域を維持し、周辺筋肉の強化や柔軟性を向上させることが、痛みの緩和や再発防止につながります。
- 正しい姿勢や動作の指導も重要です。
4. 生活習慣の見直し
- 長時間のデスクワークやスマートフォンの使用を見直し、適度な休憩を取ること。
- 姿勢改善や適切な枕の使用など、日常生活での負担を軽減する工夫が必要です。
5. 定期的な経過観察
- 症状の変化や進行を早期に察知するために、医師や理学療法士による定期的なチェック(エコー、XP,MRIなど)が重要です。
6. 患者の意識と協力
- 患者自身が積極的に治療に取り組む意識が、予後に大きな影響を与えます。
- 症状や治療方針について理解し、適切なセルフケアを実施することが予後改善につながります。
頚椎症は早期の適切な介入と日常生活の工夫で、症状を大きく改善し、再発を予防することが可能です。